妊娠と仕事
看護師が妊娠で退職する前に確かめること。使える制度と手放すもの
更新 2026年10月23日読むのに約7分
妊娠がわかって「辞めたい」と思うのは、自然なことです。辞めると決める前に、使える制度と、退職で変わる給付を並べて見ておくと、あとで振り返ったときの納得が違ってきます。
体がしんどい日に、大きなことを決めなくていいからね。
「辞めたい」の中身を、先にほどく
妊娠で辞めたいと思うとき、その中身はいくつかに分かれています。体調(つわりや立ち仕事のつらさ)、夜勤や急変対応への不安、職場の人手や空気への遠慮、産んだあとの見通し。どれが一番重いかで、先に確かめることが変わります。
- 体調がつらい:医師の指導を、職場に伝える制度があります
- 夜勤・残業が重い:請求すれば、深夜業や時間外を制限できる制度があります
- 職場に迷惑をかける気がする:制度の利用は、本来は迷惑をかけるものではないはずです
- 産後の見通しが立たない:休業の期間と給付を、先に数えておけます
辞めたい気持ちの中に、「制度を知らないまま、辞めるしかないと思い込んでいる」部分が混ざっていることがあります。逆に、制度を知ったうえで、それでも辞めたいということもあります。どちらの場合も、並べてから決めるほうが、後悔が小さくなります。
辞める前に、机の上に並べてみようか。
辞める前に、使える制度を並べる
妊娠中に使える主な制度は、次のとおりです。条文と出典は、法律のページや厚生労働省の資料で確かめられるものだけを書きます。
- 軽易な業務への転換:妊娠中の女性が請求したときは、他の軽易な業務に転換させなければなりません(労働基準法65条3項)
- 時間外・休日・深夜の制限:妊産婦が請求したときは、時間外労働・休日労働・深夜業をさせてはなりません(同66条)。請求しない限り、自動では制限されません
- 母性健康管理の措置:医師等の指導事項を守れるように、勤務時間の変更や軽減などの措置を講じる義務が事業主にあります。通勤緩和、休憩の増加、休業なども含まれます(男女雇用機会均等法)
- 産前産後休業:産前は6週間(多胎は14週間)以内に出産予定の女性が請求したとき、産後は8週間を経過しない女性を就業させられません
母性健康管理の措置を職場に伝える道具が、母健連絡カードです。医師等が指導事項を書き、事業主に伝えます。カードを出さなくても、医師等の指導があったと申し出れば、事業主は適切な措置をとる必要があります。通院の時間の確保も、会社の義務です。事業主が通院の日を非番日に変えさせたり、年次有給休暇を一方的に当てたりすることは、原則としてできません。看護師の業務(抗がん剤の取り扱い、放射線、感染症、移乗介助など)が、法律で一律に禁止されているかは確認できていません。ただ、厚生労働省の「働く女性の母性健康管理のために」(令和8年1月)は、母健連絡カードで制限できる「腰に負担のかかる作業」の例に、重量物を持ち上げることと並んで、要介護者を抱える作業を挙げています。移乗介助がつらいときは、主治医にカードへ書いてもらう方法があります。業務の扱いは、指導事項と、職場の産業医や衛生管理者に確かめます。
つわりや切迫流産などで働けないとき、何の制度で休むかは、会社の規則と医師の指示によって分かれます。母健連絡カードによる休業、傷病手当金、産前休業、有給休暇や私傷病休暇が候補です。傷病手当金の対象になるかどうかは、療養のために労務に服せないかの判断になり、医師の判断と保険者の審査に左右されます。妊娠中の業務の細かい扱いは、妊娠中の仕事と配慮で扱います。
- 使える制度(業務転換・深夜業の制限)
- 産前産後休業と育休
- 出産手当金・育休の給付の対象
- 職場への復帰の道
- いまの体調の負担から離れられる
- 自分のペースで準備できる
- 退職後の給付の条件を満たすか
- あとから戻るときの探し方
どちらが重いかは、人によって違うよ。
辞めると、何が変わるか。お金と制度の面
退職すると、産前産後休業や育児休業の制度は使えなくなります。育児休業給付金も、育休を取る人のための給付なので、育休を取る前に辞めれば対象になりません。社会保険料の免除も、育休等の期間についての制度です。出産に関するお金は、退職のタイミングで変わるものがあります。
出産手当金(健康保険)は、出産の日以前42日(多胎は98日)から、出産の日後56日までの間に、労務に服さなかった期間に支給されます。退職後でも、資格喪失日の前日までに被保険者期間が継続して1年以上あり、その前日に出産手当金を受けているか受けられる状態にあれば、引き続き受けられます。ただし、退職日に出勤すると、資格喪失後の出産手当金は受けられません。挨拶のために退職日に出勤するときは、特に注意が必要です(協会けんぽの説明)。
出産育児一時金は、1年以上被保険者だった人が、資格喪失後6か月以内に出産したときも、受けられます。2023年4月以降の出産で、産科医療補償制度に加入している医療機関での22週以降の出産は、1児につき50万円です。2026年6月には、出産費用の自己負担をなくす方向の法律(健康保険法等の一部を改正する法律)が公布されましたが、施行日は公布後2年以内に政令で決めることになっていて、それまでは出産育児一時金の50万円が続きます。同じ出産について支給は1回のみで、被保険者の資格喪失後に、被扶養者だった家族が出産した場合の家族出産育児一時金は支給されません。協会けんぽ以外の保険者(健保組合・共済・国保)は、加入先に確かめます。
育児休業給付金は、休業開始前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上あることなどが要件です。産後休業の期間は、育児休業給付金の対象外です。育休を取らずに辞めるか、育休を取って復帰するかで、お金の流れは大きく変わります。育休の途中で離職した場合は、離職日(資格喪失日の前日)までが支給の対象になると、ハローワークのリーフレット(2026年8月1日改訂版)は説明しています。ただし、育休は復帰を前提にした制度なので、退職が決まっている人が取るものではありません。育休中に辞めるときの順番は、育休中・復帰前に辞めるときの確認にまとめます。
辞めさせられそうなときの確認も、先にしておきます。婚姻、妊娠、出産を退職の理由として予定する定めは、してはならないとされています。妊娠中と出産後1年以内の解雇は、事業主が妊娠・出産等を理由としないことを証明しない限り、無効です。「パートにならないか」といった勧めも、本人の真意に基づかない同意なら、不利益取扱いにあたりうるとされています。退職届を出す前に、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーに相談できます(窓口の選び方は労働相談の窓口の選び方)。職場の言動がつらいときは、看護師のマタハラも読んでみてください。
決める前の1週間の過ごし方
辞めるかどうかは、1日で決めなくてもかまいません。つわりの重い時期は、気持ちも揺れやすくなります。1週間、決めないまま、書き出しと確認だけをします。決めるのは、そのあとです。
毎日の様子は、記録ノートに書き留めておくと、体調の波を見返せます。誰かに相談するときも、日付つきのメモがあると、話が早く進みます。
ここまで調べるのは、体力のいることだったと思うよ。
返事は、急がなくていいからね。
よくある質問
つわりがつらくて辞めたいとき、先に使える制度はありますか?
主治医に母健連絡カードを書いてもらうと、勤務時間の短縮や休憩、休業などの措置を職場に求められます。夜勤や残業は、請求すれば制限されます(労働基準法66条)。辞めるかどうかは、これらを使ってみてから決めても遅くありません。
退職しても、出産手当金はもらえますか?
資格喪失日の前日までに、被保険者期間が継続して1年以上あり、その前日に出産手当金を受けているか受けられる状態なら、継続して受けられます。退職日に出勤すると、受けられません。加入先の保険者に確かめてください。
辞めたあと、また看護師として働くために、しておくことはありますか?
病院などを辞めたときは、都道府県ナースセンターに氏名や連絡先を届け出る制度があります(努力義務。届出サイト「とどけるん」)。届け出ておくと、復職の研修や求人の情報を受け取れます。詳しくは[潜在看護師と届出制度](/senzai-kangoshi/)にあります。
出典・参考(公的な情報)
- 働く女性の母性健康管理のために(令和8年1月)(都道府県労働局(厚生労働省))
- 労働基準法 第19条・第64条の3・第65条・第66条・第67条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 男女雇用機会均等法 第9条・第15条・第22条〜第29条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 出産手当金(全国健康保険協会(協会けんぽ))
- 出産育児一時金(全国健康保険協会(協会けんぽ))
- 健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)の概要(厚生労働省)
- 育児休業等給付の内容と支給申請手続(2026年8月1日改訂版)(厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク)
- 育児・介護休業法のあらまし(令和7年4月1日、10月1日施行対応)(厚生労働省)
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省)
- 看護師等免許保持者の届出制度(厚生労働省)
法令・制度は、上の出典を 2026年10月23日 に確認して書いています。改正されることがあるので、手続きの前に、最新の内容を各窓口で確かめてください。
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この内容は一般的な情報で、医療的な診断や個別の助言ではありません。つらさが続くときは、公的な窓口や、かかりつけ医・産業医に話してください。