ハラスメントと相談窓口
看護師のいじめはなぜ多いと言われる?起きやすい構造と距離の取り方
更新 2026年10月23日読むのに約6分
「看護師の職場はいじめが多い」と聞くと、自分が受けた出来事まで同じ話に見えて、苦しくなることがあります。この記事では、言えることと言えないことを分けたうえで、起きやすい条件と、巻き込まれすぎない距離の取り方を整理します。
休憩室に入る前に、ひと呼吸おいてしまう日って、あるよね。
その重さを、順番にほどいていこう。
「看護師はいじめが多い」は、どこまで言えるのか
検索すると、「看護師の職場はいじめが多い」という言葉に何度も出会います。読むほどに、自分の職場だけの問題ではなかったと安心する人もいれば、「どこへ行っても同じなのか」と気持ちが沈む人もいます。まず、数字で確かめられることと、確かめられないことを分けておきます。
日本看護協会が2019年9月に実施した調査について、労働政策研究・研修機構(JILPT)の2022年の報告は、最近1年間に、看護職員の2人に1人が暴力・ハラスメントを受けていたと紹介しています。見落としやすいのは、数えているのが「暴力・ハラスメント」全体だという点です。患者さんや家族からの言動も含まれ、精神的な攻撃、身体的な攻撃、人間関係からの切り離しなど、種類も分かれています。
このため、「看護師の2人に1人が先輩にいじめられている」とは言えません。また、この記事で確認した公的な資料の範囲には、他の業種と比べて看護師が多いかどうかを示す数字は見つかっていません。「看護師だけが特別に多い」とも、「どこも同じ」とも、数字からは言い切れないのです。
「多い」と感じる人がいる理由は、件数とは別のところにもありそうです。次の節で言葉の定義を確かめ、そのあとで、起きたときに逃げにくい条件を構造として整理します。
「いじめ」は法律の言葉ではない。パワハラとの重なりを見る
「いじめ」は、法律で定義された言葉ではありません。法律上の整理の軸は、パワーハラスメントの3つの要素(優越的な関係を背景にした言動・業務上必要かつ相当な範囲を超える・就業環境が害される)です。同僚からでも、経験の差や集団の行為で抵抗しにくいものは、優越的な関係の例に入ります。3つの要素と6つの型の全体は、ハラスメントの種類の見分け方にまとめています。
つまり、「いじめ=パワハラ」と一対一では結べず、「厳しい指導はすべて問題」とも、「指導だから我慢するもの」とも言えません。次の表に、よくある思い込みと、公的な説明を並べました。
| よくある思い込み | 公的な説明 | ここから動かせること |
|---|---|---|
| 「いじめ」は法律で決まった言葉 | 法律上の定義はなく、整理の軸はパワハラの3要素 | 出来事を事実で書き、3要素に沿って話す |
| 厳しい指導は全部パワハラ | 適正な指導は該当しない。人格否定などは該当し得る | 言葉の強さより、中身と頻度を見る |
| 同僚からはパワハラにならない | 知識・経験の差や、集団の行為は例に入る | 相手の立場より、関係の力を見る |
| 相談すると不利になる | 相談を理由とする不利益な取扱いは禁止(保証ではない) | 社外の窓口から話してもよい |
| 自信がないと相談できない | 窓口は、該当するか微妙な場合も広く対応する | 迷っている段階で、聞いてもらう |
指針は、個別の出来事への当てはめを示すものではありません。
言葉を分けるだけで、少し息がしやすくなるよ。
表の最後の行が、実はいちばん大事です。相談の入口は、パワハラかどうかの判定が済んだあとに開くのではなく、迷っている段階から開いています。
起きやすい条件を、人柄ではなく構造から見る
ここから先は、公的な資料が原因を断定しているわけではなく、この記事の整理です。「あの人は性格がきつい」と人の側に理由を探すと、距離の取り方が見えにくくなります。起きたときに逃げにくい条件を、構造として4つに分けます。
- 顔ぶれが固定されやすい:同じ病棟・同じシフトで顔を合わせ続けるため、一度ぎくしゃくすると、距離を取る場所がありません。
- 知識と経験の差が、そのまま力の差になる:新人や異動したばかりの人は、教えてもらわないと仕事が進みません。協力を得なければ円滑に業務ができない関係は、指針が「優越的な関係」の例に挙げる形に近づきます。
- 忙しさで、言い方に余裕がなくなる:急変や緊急の場面では、短くきつい言い方になりがちです。忙しさは背景にはなりますが、その言動が「業務上必要かつ相当な範囲」かどうかは、別に見られます。
- 相談の入口が見えにくい:事業主には相談窓口を定めて周知する義務がありますが、小さな職場では窓口が実質ない場合もあり、同じ部署の人に話すしかないと感じやすくなります。
看護の職場ならではの条件も重なります。交代勤務で、夜勤の二人体制や少人数の時間帯があり、相手と離れる手段がない時間が長くなります。申し送りや記録の確認で、人前で指摘される場面が毎日あります。プリセプターなど教える人が固定されると、その人との相性が、そのまま毎日の居心地になります。異動や中途採用で入った人は、その職場のやり方を知らないぶん、「前の職場では」と言うだけで浮いてしまうこともあります。
4つのうち、自分の職場に当てはまるものはどれでしょうか。当てはまる条件が多いほど、「自分に問題があったから」ではなく、「起きやすい条件が重なっていた」と考える余地が広がります。
条件が重なっていたと分かるだけで、自分を責める声が、少し小さくなるかもしれないね。
新人のころは、「自分が悪い」と読んでしまいやすい
新人のうちは、できないことが多く、叱られるたびに「自分の覚えが悪いからだ」と受け止めやすい時期です。手技や確認の抜けは、患者さんの安全に関わるため、はっきり指摘される場面もあります。厳しさそのものと、人格や存在を否定される言い方は、分けて見ます。
分ける手がかりとして、指針の考え方を借ります。見るのは、言葉の強さよりも、次の点です。
- 指摘の中身が、仕事の内容・手順・安全に向いているか、人柄や存在に向いているか
- 同じことが、何度も、長時間にわたって繰り返されているか
- 他の人の前で、威圧するような大きな声で行われているか
- 話しかけても返事がなく、集団で無視されている形になっていないか
新人がいじめと感じやすい場面と、指導として受け止めてよい場面を、例で並べます。
- 指導に近い例:「この薬は投与前にダブルチェックして。理由は〇〇だから」と、手順と理由を示して注意される
- 指導に近い例:同じ確認漏れが続いたあと、個室で、次からの手順を一緒に決める
- いじめと感じやすい例:質問すると「そんなことも分からないの」と、周りに聞こえる声で返される
- いじめと感じやすい例:自分にだけ申し送りの声をかけてもらえず、必要な情報が届かない
- いじめと感じやすい例:ミスとは関係のない性格や家庭のことまで、くり返し言われる
どれかが当てはまれば該当する、という意味ではありません。判断は、言動の目的、経緯や状況、頻度や継続性、相手との関係などを総合して行われると、指針にあります。当てはまる項目を、感想ではなく出来事として残しておくと、窓口で話すときの材料になります。
事業主が事実を確かめるときも、時系列で整理した記録が手がかりになります。詳しい書き方と相談の手順は、いじめかもと思ったときの記録と相談先にまとめます。
書き残すのは、あとで話すときの、自分のための準備だよ。
巻き込まれすぎない距離の取り方と、相談の順番
距離を取るとは、相手と関わらないことではなく、巻き込まれ方を選ぶことです。仕事に必要な連絡は残しつつ、自分で変えられる部分を変えます。次は、一般的によく試される工夫です。効くかどうかは職場によって違うので、一つずつ試して様子を見ます。
- 業務の連絡は、事実と依頼だけを短く伝える(感情を乗せない)
- 一対一になりやすい場面(更衣室・休憩室・夜勤の二人体制)は、できる範囲で時間や場所をずらす
- 悪口や噂話の輪からは、「そうなんですね」で止めて、深追いしない(陰口の輪に入らない返し方)
- 同じ部署の外に、愚痴ではなく状況を話せる人を一人持つ
家の中まで、職場を持ち込まなくていいよ。
つらさが続いたり、出来事が繰り返されたりするときは、相談の順番を整えます。まず社内(人事労務の相談担当者や信頼できる上司)、難しければ社外(都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナー)です。窓口ごとの使い方は、看護師のパワハラ相談の手順にまとめています。相談したことを理由にした不利益な取扱いは、労働施策総合推進法で禁止されています。
加害が患者さんや家族からの場合は、別の枠組みが使えます。2026年10月1日から、患者さんや利用者の言動(いわゆるカスハラ)への対策が、病院や施設などすべての事業主の義務になりました。詳しくは、カスハラの定義と、組織としての対応にまとめます。身近な人にも話せず、眠れない・食べられない状態が続くときは、整理より先に、つらいときの窓口を使ってください。
ひとりで抱える時間が長くなってきたら、話せる窓口もあるからね。
今日は「構造のせいかも」と思えたら、それで十分だよ。
よくある質問
看護師の職場でいじめを受ける人は、どのくらいいますか?
日本看護協会が2019年9月に実施した調査では、最近1年間に、看護職員の2人に1人が暴力・ハラスメントを受けていました(JILPTの報告)。この数字は患者さんや家族からの言動も含むため、同僚からのいじめだけの割合ではありません。
新人への厳しい指導と、いじめは、どこで分かれますか?
指針は、業務上必要かつ相当な範囲の適正な指導は該当しないとし、人格を否定する言動や、長時間の厳しい叱責の繰り返しは該当し得る例としています。例は限定列挙ではなく、目的・頻度・継続性などで総合して判断されるため、個別の判断は窓口で聞いてください。
新人の看護師へのいじめの原因は何ですか?
原因を一つに決めることはできませんが、教えてもらわないと仕事が進まない立場であること、人前で指摘される場面が毎日あること、教える人が固定されやすいことなど、起きたときに逃げにくい条件が重なりやすい時期です。自分の覚えの悪さだけが理由と決めず、出来事を事実で書き残して、教育担当以外の人にも話してください。
出典・参考(公的な情報)
- 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)(厚生労働省)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)
- 労働施策総合推進法 第31条・第33条・第35条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(厚生労働省)
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省)
- 事例報告1 看護現場におけるハラスメント防止に向けた日本看護協会の取組み(第119回労働政策フォーラム、2022年2月)(独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT))
法令・制度は、上の出典を 2026年10月23日 に確認して書いています。改正されることがあるので、手続きの前に、最新の内容を各窓口で確かめてください。
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この内容は一般的な情報で、医療的な診断や個別の助言ではありません。つらさが続くときは、公的な窓口や、かかりつけ医・産業医に話してください。