看取りと感情の負担
看護師の感情労働・共感疲労とは。怒りを受けたあとの気持ちの戻し方
更新 2026年10月23日読むのに約6分
患者さんやご家族の前で、気持ちを整えて向き合い続けるうちに、自分の気持ちが置き去りになることがあります。感情労働・共感疲労という言葉で場面を整理し、たまった気持ちを3段で戻す方法をまとめました。
笑顔で応える日々、気づかないうちに、心の中が疲れてることって、あるよね。
感情労働・共感疲労という言葉の使い方
感情労働と共感疲労は、法律や行政の用語ではなく、公的な定義もありません。研究や現場で使われてきた言葉で、この記事では次の意味で使います。どちらも病名ではなく、いまの状態に仮の名前をつけて、相談しやすくするための言葉です。
- 感情労働:仕事のために、自分の感情を整えて、表情や態度として表すこと
- 共感疲労:相手の苦しみに寄り添い続けて、自分の中に疲れや気持ちの重さがたまること
看護の仕事には、気持ちを整えて表に出す場面が多くあります。痛みで苛立つ患者さんに穏やかな声で応える、ご家族の怒りや悲しみを受け止める、急変のあとも落ち着いた声で次の対応に移る、後輩の前で動揺を見せない役を引き受ける。自分の気持ちと、表に出すふるまいが少しずれる場面があれば、そこが感情労働の手がかりです。長く関わった患者さんの経過に気持ちが引きずられ、帰宅しても切り替わらない日が続くなら、共感疲労の言葉が近いかもしれません。
どちらにも当てはまらないと感じるなら、重さの出どころは、気持ちの面ではなく勤務や人手の面にあるかもしれません。厚生労働省の令和7年の労働安全衛生調査(実態調査)では、強い不安・悩み・ストレスがある労働者は67.5%で、内容は「仕事の量」と「仕事の失敗、責任の発生等」が39.5%で並んで最も多く、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」が32.9%でした。全職種の数字ですが、勤務の側もあわせて見る手がかりになります。
- 場面患者・家族と向き合う
- 整える気持ちを整えて表に出す
- 後回し自分の気持ちは、あとで
- たまる疲れ・気持ちの重さ
- 戻す30秒・休憩・帰宅後
戻す場所があるかどうかが、分かれ目かもしれないね。
怒りを受けたあとの戻し方:勤務中の30秒・休憩・帰宅後
患者さんやご家族の怒りを受けたあと、気持ちを整えたまま次の部屋へ向かうと、たまった分は後ろに残ります。一度に戻そうとせず、使える時間の長さで3段に分けておくと、勤務の流れを止めずに、少しずつ戻せます。
- 勤務中の30秒:部屋を出たら、廊下や物品庫で一度止まり、息を長く吐く。「いまの怒りは、自分個人より、状況に向いていた」と頭の中で一言つける。次の部屋の名前と用件だけを確かめてから入る
- 休憩:同僚に「さっき○号室で強く言われて」と、事実だけを一言話す。話す時間がなければ、メモに1行だけ書く。休憩の終わりに、残っている仕事を1つ確かめて戻る
- 帰宅後:着替えと入浴で、仕事の場面と切り離す。書くなら、事実・そのときの気持ち・いまの体の様子の3行だけにする。眠る前に場面を何度も思い返すときは、書いた紙を閉じて翌日に回す
怒りの多くは、痛みや不安、待ち時間、病状を受け入れにくい気持ちなど、患者さんやご家族が置かれた状況から出ています。そう見ると、自分の対応を責めすぎずに済みます。ただし、どんな言葉も受け止め続ける必要はありません。人格を否定する言葉が続くときや、手を上げそうな気配があるときは、戻し方より先に、その場を離れて応援を呼びます。
3段のどこかで止まってしまう日もあります。止まりやすい段が分かると、職場に頼むことも見えてきます。勤務中の30秒さえ取れないなら受け持ちの組み方を、休憩で話す相手がいないなら話せる場を、相談する材料になります。
どの段で止まりやすいか、ちょっとだけ考えてみて。
答えは出さなくていいからね。
燃え尽きとの違いと、振り返りの場の頼み方
似た言葉に、燃え尽きがあります。こちらは、WHO(世界保健機関)が2019年5月に、国際疾病分類 ICD-11 の説明で、「うまく対処されてこなかった慢性的な職場のストレスから生じる症候群」として示しています(原文は英語で、当サイトによる要約です)。特徴は、エネルギーの枯渇感や疲弊感、仕事への心理的な距離の増大や否定的な気持ち、職業的な有効性の低下の3つです。詳しくは、燃え尽きかもと思ったときにまとめています。
感情労働・共感疲労
気持ちを整える場面と、そこでたまる疲れを言い表す言葉。研究や現場で使われてきた言葉で、公的な定義はありません。
燃え尽き
WHO が、職業の場面の現象として、特徴3つとともに示した言葉。生活のほかの領域には当てはめないとされています。
強い怒りや悲しみを受けた場面のあとに、関わったメンバーで短く振り返る場(デブリーフィング)を設けている職場もあります。仕組みがなくても、師長に頼むことはできます。振り返りの目的は、誰かの対応を責めることではなく、場面の事実を共有し、次に同じことが起きたときの動き方を決めることだと伝えると、頼みやすくなります。
昨日の○号室のご家族の件で、関わったメンバーと10分ほど振り返る時間をもらえませんか。対応の良し悪しではなく、次に同じことがあったときの動き方を決めておきたいです。
師長に、振り返りの場を頼むときの文例
暴言・暴力があるとき、つらさが続くときの相談先
怒りの受け止めが、暴言や暴力、くり返される理不尽な要求になっているときは、気持ちの整理だけで抱える話ではありません。患者さんやご家族からの暴言への、その場の身の守り方と職場の対応は患者・家族の暴言の記事に、ハラスメントの種類の見分け方はハラスメントの種類の記事にまとめています。
気分の落ち込みや日常生活への大きな支障が続くときは、こころの情報サイトが、自己判断せず、精神科・心療内科などに相談するよう案内しています。職場では産業医やストレスチェックの面接指導が、職場の外ではこころの耳などの公的な窓口が使えます。番号と受付時間はメンタルの相談窓口の早見表に、看取りの場面の負担は看取りのあとの気持ちの置き場所にまとめています。
言葉は、道具だよ。使えそうなところだけ、持って帰ってね。
よくある質問
感情労働とは、何ですか?
法律や行政の用語ではなく、公的な定義もありません。この記事では、仕事のために自分の感情を整えて、表情や態度として表すこと、という意味で使っています。病名ではありません。
共感疲労は、燃え尽きと同じですか?
同じ言葉とは言えません。燃え尽きは、WHO が、うまく対処されてこなかった慢性的な職場のストレスから生じる症候群として示し、3つの特徴を挙げています。共感疲労は、この記事では、寄り添い続けて疲れがたまる状態を言い表す仮の名前として使っています。
患者さんに怒鳴られたあと、気持ちを切り替えるには?
一度に戻そうとせず、勤務中の30秒(部屋を出て息を吐き、次の用件だけ確かめる)、休憩(事実を一言話すか1行書く)、帰宅後(3行だけ書いて閉じる)の3段に分ける方法があります。暴言がくり返されるときは、職場に報告します。
出典・参考(公的な情報)
- Burn-out an "occupational phenomenon": International Classification of Diseases(2019年5月28日)(世界保健機関(WHO))
- 令和7年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況(厚生労働省)
- うつ病(こころの情報サイト)(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
法令・制度は、上の出典を 2026年10月23日 に確認して書いています。改正されることがあるので、手続きの前に、最新の内容を各窓口で確かめてください。
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この内容は一般的な情報で、医療的な診断や個別の助言ではありません。つらさが続くときは、公的な窓口や、かかりつけ医・産業医に話してください。