看取りと感情の負担
看護師が看取りのあとにつらいとき。気持ちの置き場所の作り方
更新 2026年10月23日読むのに約6分
患者さんを見送ったあとも、勤務は続き、次の部屋に入らなければなりません。気持ちを置いておける場所を3つ作るという考え方と、つらさが続くときの目安をまとめました。
ご家族のそばで、ずっと立っていたんだね。
看取りのあとに出てくる気持ちは、一つではない
手を合わせ、ご家族に頭を下げ、記録を書き、次の部屋へ向かう。看取りのあとの数時間は、気持ちを整える間もなく、仕事が続きます。そのあいだ、気持ちは、後ろに置かれたままになりやすいものです。
出てくる気持ちは、人によっても、看取りによっても違います。以下は、公的な資料にもとづく分類ではなく、言葉にするときの手がかりとして並べた例です。当てはまらないものがあっても、おかしいわけではありません。
- 悲しさや、胸にぽっかり穴があいたような感じ
- もっとできたことがあったのでは、という無力感
- ご家族が落ち着かれて、ほっとした気持ちと、そう感じたことへの戸惑い
- 何も感じない自分への不安
- ご家族の言葉や、最期の様子が、何度も頭に浮かぶこと
- 眠れない、食べられないなど、からだに出る変化
「慣れない自分が悪いのでは」と思うことも、慣れてしまうことが怖い、と思うこともあるかもしれません。感じ方に正解はなく、慣れるか慣れないかを、自分の評価に結びつけなくてよい場面です。
この記事は手順書ではなく、気持ちの置き場所を作るための考え方の紹介です。つらさが続くときの目安と窓口は、公的な情報の範囲で書いています。
気持ちの置き場所を、3つ作る
この記事では、気持ちを消そうとするのではなく、置いておく場所を作る、という考え方で整理します。置き場所は、書く・話す・離れるの3つです。効果が確かめられた方法という意味ではなく、試しやすい選択肢の例です。1つだけでも、使えそうなところから選びます。
1つ目は、書くことです。紙のノートでも、スマホのメモでも使えます。このサイトの現在地ログは、月に1回、3問・約30秒で、いまの気持ちを記録するものです。医療的な評価ではなく、変化を目で見るためのものです。看取りのあとの、細かな気持ちを書き留めるには、次のようなメモが使えます。
- あったこと:事実だけを短く(個人が特定される内容は書かない)
- そのとき感じたこと:言葉にならなければ、「重い」だけでも
- いま、からだに出ていること:眠り、食欲、疲れ
- いま、話したい相手:同僚、師長、窓口など
- 今日の自分にできる、小さなこと:1つだけ
事実と気持ちを分けて書いてみるのも、一つの方法だよ。
患者さんの名前・病室・日時など、個人が特定できる内容は、書かない決まりにしておきます。気持ちだけを書いておけば、あとから読み返したときにも、そのまま使えます。
2つ目は、話すことです。話す相手は、信頼できる同僚や先輩、師長、職場の産業医や相談窓口が考えられます。話す場が職場の仕組みとしてあるかどうかは、職場によります。仕組みがなければ、一人に声をかけることから始めます。
先日の看取りのあと、気持ちの整理がつかずにいます。少しだけ、話を聞いてもらえませんか。
話を聞いてほしいときの、切り出し方の例
3つ目は、離れることです。勤務のあとは、休むことを優先します。厚生労働省の『健康づくりのための睡眠ガイド2023』(2024年2月)は、睡眠休養感を高めることを推奨しています。気持ちが重い日ほど、眠りを削らないことが、置き場所の一つになります。眠れない夜が続くときは、睡眠改善のチェックリストも使えます。
ここで、お茶を一口。
置き場所は、一度に作らなくていいからね。
日がたっても続くとき、見ておくこと
気持ちの重さがいつまで続くかは、人によって違います。目安は、日常生活や仕事への支障が続いているかどうかです。こころの情報サイトのうつ病の説明ページは、気分の落ち込みや日常生活への大きな支障が続く場合に、自己判断せず、精神科・心療内科などに相談するよう案内しています。睡眠ガイド2023も、眠れない・休めた感じがない・日中の眠気が強いなどの症状が続いて、日中の生活に影響しているときは、速やかに医師に相談するとしています。
- 眠れない夜や、休んでも休まらない日が続いている
- 気持ちの落ち込みで、仕事や家での暮らしに支障が出ている
- 死にたい、消えてしまいたいという気持ちが出てきた
場面が何度も浮かんで頭から離れないときも、日常生活への支障が続くなら、上の窓口や医療機関に話せます。急変や暴力など、強い体験のあとの記憶の問題は、つらい体験のあとの不調(PTSD)の記事で、公的な目安を扱います。ここでは、看取りの体験をそこに当てはめて判断することはしません。
職場では、産業医やストレスチェックの面接指導が、相談の入口になります。地域では、保健所や精神保健福祉センターが相談の窓口です。職場の外の窓口は、働く人向けのこころの耳と、夜中や休日にもつながる24時間の窓口があり、番号と受付時間はメンタルの相談窓口の早見表にまとめています。死にたい気持ちがあるときは、ほかのことより先に、24時間の窓口を使います。
次の看取りまでの、仕事の側の調整
気持ちの置き場所を作っても、次の看取りは、予告なく来ます。仕事の側で動かせることがあるなら、上司に聞いておきます。たとえば、続けて看取りがあった週は、受け持ちの組み合わせや、夜勤の入り方を見直せないか、という相談です。見直せるかどうかは職場によるため、聞いてみないと分かりません。
- 看取りが続いた週の、受け持ちの組み合わせを見直せるか
- 夜勤の入り方(連続や間隔)を、いったん軽くできるか
- 看取りのあとに、少し席を外して気持ちを落ち着ける時間をもらえるか
- 気持ちの整理がつかないとき、誰に声をかけてよいか
最後の項目は、仕組みの話です。話せる相手が決まっていると、看取りのたびに、その人に一言伝える流れが作れます。決まっていないなら、決まっていないことを、上司に伝えること自体が相談になります。
気持ちを仕事のために整える場面が続く負担については、感情労働・共感疲労の記事で、言葉の整理をしています。責任の重さが気持ちに残って眠れない場面は、責任が重くて眠れないときの記事で扱っています。
見送った人のことを思い出す日があっても、それは大切にしてきた証だよ。
今日の分のメモを1行だけ。それで十分だよ。
よくある質問
看取りに慣れないのは、おかしいですか?
慣れる・慣れないを、判断する必要はありません。この記事では、気持ちを消すのではなく、書く・話す・離れるの3つの置き場所を作る考え方を紹介しています。つらさが続くときは、産業医や窓口に話してください。
看取りのあと、どのくらいつらさが続いたら相談すべきですか?
日数では決められません。気分の落ち込みや日常生活への大きな支障が続くとき、睡眠の不調が続いて日中の生活に影響しているときは、医師や窓口に相談してください。死にたい気持ちがあるときは、24時間の窓口があります。
職場で、看取りの気持ちを話せる場がありません。
話す場が仕組みとしてあるかは、職場によります。一人の同僚や先輩、師長、産業医に声をかけることから始められます。職場の外では、こころの耳の電話・SNS相談が使えます。
出典・参考(公的な情報)
- 健康づくりのための睡眠ガイド2023(厚生労働省)
- うつ病(こころの情報サイト)(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
- 精神保健福祉センターと保健所(e-ヘルスネット)(厚生労働省)
- 働く人の「こころの耳電話相談」(こころの耳(厚生労働省))
- 電話相談窓口(まもろうよ こころ)(厚生労働省)
法令・制度は、上の出典を 2026年10月23日 に確認して書いています。改正されることがあるので、手続きの前に、最新の内容を各窓口で確かめてください。
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この内容は一般的な情報で、医療的な診断や個別の助言ではありません。つらさが続くときは、公的な窓口や、かかりつけ医・産業医に話してください。