退職の進め方
看護師の退職の引き止めを断る考え方。法律の線引きと伝え方
更新 2026年10月23日読むのに約6分
引き止められると、辞めたい気持ちと、申し訳なさが、同時に大きくなります。引き止めの型と、法律で決まっていること、断る言葉を整理します。
「いま辞められたら困る」と言われると、胸が重くなるよね。
「いま辞められたら困る」の中身を、4つに分ける
退職を伝えたあとに、上司や管理者から引き止められる場面は、珍しくありません。ただ、引き止めの言葉は一種類ではなく、中身で返し方が変わります。まず、言われた言葉が、次の4つのどれに近いかを分けてみます。
- 人手の話:「年度の途中で抜けられると回らない」「後任が決まるまで待ってほしい」
- 気持ちの話:「ここまで育てたのに」「みんなが困る」「患者さんはどうなるの」
- 条件の話:「夜勤を減らす」「部署を変える」「給与を上げる」など、残る場合の提案
- 圧力の話:「辞めるなら損害賠償」「研修費を返してもらう」など、辞めたあとの不利益をほのめかす言葉
前の3つは、辞めてほしくないという職場側の気持ちから出ることが多く、話し合いで折り合う余地もあります。4つ目は性質が違い、法律の確認が要るため、後ろの節で扱います。
気持ちの話は、責任感が強い人ほど重く響きます。ただ、人員の確保は、職場の管理の側の仕事でもあります。申し訳ない気持ちがあることと、辞めるという判断を変えることは、分けて考えられます。
揺れるのは、真剣に考えてきたからだよ。揺れたままでも、いいんだよ。
条件の話は、その場で決めず、いったん持ち帰るのが落ち着いたやり方です。見るのは、辞めたい理由と、提案された条件が重なっているかどうかです。夜勤が理由なのに給与の上乗せを提案されても、理由そのものは変わりません。理由の整理は、看護師の退職理由の伝え方が使えます。
法律で決まっていることと、決まっていないこと
期間の定めのない雇用では、民法627条1項により、いつでも解約の申入れができ、申入れの日から2週間を経過すると雇用が終了します。期間のある契約(1年更新の契約職員など)は、別の考え方になります。
引き止めの場面について、厚生労働省と労働局の説明を見ます。茨城労働局のQ&Aは、新しい人が見つかるまで、いつまでも退職を許可しないということはできない、としています。「確かめよう労働条件」の裁判例のページも、2週間を超える解約予告期間の設定や、退職を会社の許可制にすることは、退職の自由を制限するので無効となる、と説明しています。
つまり、「後任が決まるまで」は、辞められない理由にはなりません。一方、就業規則に「退職は1か月前まで」などの定めがある職場では、著しく長い期限でなければ、その期限に合わせて申し出るのが無難です。何か月前に伝えるかの考え方は、退職の時期と、何か月前に伝えるかにまとめています。引き止めの場面では、話し合いが長引いても、いつ申し出たかの日付が残っていることが大切になります。
日付を残す方法のひとつが、書面で出すことです。厚生労働省は、確実に一定の日で退職したい場合は、必要な期間を見込んだうえで、合意退職の申込みと解釈されない表現で、退職の意思を明確に書いた「退職届」を出すのが無難、と説明しています。一方、退職願は、一般に合意退職の申込みとされ、会社が承諾するまでは撤回できる反面、承諾されない間は効果が発生しません。「いったん預かっておく」と言われて保留になると、いつ辞めるのかが曖昧になります。表題だけで決まるわけではないため、書き方と出し方は退職届と退職願の違いでも確かめます。
では、説得や面談そのものはどうでしょうか。引き止めだから違法、と一括りにはできません。一方、労働基準法5条は、暴行、脅迫、監禁その他、精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならないと定めています。どこからがこれに当たるかは、場面ごとの事情で変わります。個別の線引きは、総合労働相談コーナーなどの窓口で確かめます。
条文の話が続いたから、ここで肩の力を、少し抜こうか。
断ることは、冷たいことじゃないんだよ。
断る言葉を、場面ごとに用意しておく
断る言葉は、理由を長く説明するより、短くて、同じ内容を繰り返せるもののほうが使いやすくなります。説明を重ねるほど、一つひとつに反論が返ってきて、話し合いが長くなりやすいためです。型は、感謝、決めたこと、日付、引き継ぎの順です。
お気持ちはありがたく受け止めています。そのうえで、退職の考えは変わりません。○月○日付で退職したく、引き継ぎの計画も作ってきました。
人手の話に対する返しの例
- 気持ちの話に:「ここまで育てていただいたことには、感謝しています。決めたことは変わりませんが、引き継ぎは丁寧に行います。」
- 条件の話に:「条件を考えてくださって、ありがとうございます。理由は条件とは別のところにあり、考えは変わりません。」
- その場で返事を迫られたとき:「この場では、お話を伺うところまでにさせてください。日付は、書面でお伝えします。」
- 面談が重なったとき:「お話は十分に伺いました。退職の意思は変わりませんので、日程の相談に進めたいです。」
- 受け止めるその場で決めない
- 規則を見る退職の定め
- 書面で出す日付つき
- 引き継ぎを示す資料と日程
- 迷ったら窓口相談は無料
いま立っている段階のところだけ、見ればだいじょうぶだよ。
面談の内容は、日付と、誰が何を言ったかを、事実だけで書き残します。あとで窓口に相談するとき、言葉の記録があると、状況が伝わりやすくなります。記録ノートに、1回あたり1〜2行で足ります。
損害賠償・研修費・最後の給与の話が出たとき
圧力の話は、言葉の強さに押されて、その場で承諾してしまいやすいところです。実際に何が決まっているかを、3つに分けて確かめます。
1つ目は、損害賠償や違約金です。労働基準法16条は、使用者が、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ決めておく契約をしたりしてはならないと定めています。「確かめよう労働条件」のQ&Aは、あらかじめ金額を決めた違約金や賠償の予定は無効で、会社が請求できるのは、実際に損害を受けたことを証明した場合にとどまる、と説明しています。ただし、実際の損害の賠償まで禁じるものではないため、「何も払わなくてよい」とは言えません。賠償が認められるかは、個別の事情で決まります。
2つ目は、研修費や資格取得費の返還です。長野労働局のハンドブック(2026年2月)は、一定期間勤務しなかった場合に研修費用や資格取得費用を返還させる契約は、損害賠償を予定する契約として16条に違反する可能性がある、と説明しています。ただし、明確な貸借契約があり、一定の条件で返済を免除するものは除かれます。看護師の修学資金や奨学金がどちらに当たるかは、個別に変わります。契約書が「貸与」になっているか、免除の条件は何かを読み、迷ったら総合労働相談コーナーに確かめます。病院の奨学金や県の修学資金の返還条件の読み方は、奨学金を返せない・辞めたいときの確認の順番にあります。
3つ目は、最後の給与からの天引きです。労働基準法24条1項は、賃金を、通貨で、直接労働者に、その全額を支払うよう定めています。「確かめよう労働条件」は、賠償金などを使用者が一方的に賃金から控除することは、原則として許されないと説明しています。例外は、税金や社会保険料、労使協定にもとづく控除など、限られます。引かれていたら、控除の根拠が何かを会社に確認し、納得できなければ労働基準監督署に相談します。
このほか、退職後の競業や秘密保持の誓約書を求められることもあります。競業の制限は、期間、場所の範囲、職種の範囲、代償の有無などを見て、合理的な範囲を超えて職業選択の自由を不当に拘束する場合は無効とされる、と「確かめよう労働条件」の裁判例のページにあります。その場で署名せず、持ち帰って、期間・地域・職種の範囲と、見返りの有無を読みます。
窓口は、都道府県労働局や労働基準監督署内の総合労働相談コーナー(平日の日中、無料・予約不要)と、夜間・休日に対応する労働条件相談「ほっとライン」(0120-811-610、平日17〜22時・土日祝9〜21時)があります。ほっとラインは事業場への指導まではできないため、法令や裁判例を踏まえた相談先として使います。つらさが強いときは、つらいときの窓口にも話せます。
気持ちが揺れたときに、確かめておくこと
引き止めで気持ちが揺れるのは、自然なことです。残るという選択も、辞めるのと同じように、ひとつの答えです。大事なのは、条件が整ったから残るのか、その場の空気に押されて残るのかを、自分で分けておくことです。
体調がつらくて辞めたい場合は、残るか辞めるかの前に、休むことを先に考えます。つらいときの窓口に話してから決めても、遅くありません。会社に連絡できない状態のときは、退職代行を考える前に確かめること、試用期間中は試用期間の退職と本採用拒否も読めます。
断る言葉が手元にあるだけで、ずいぶん違うからね。
よくある質問
「後任が決まるまで待って」と言われたら、待たないといけませんか?
厚生労働省は、新しい人が見つかるまで、いつまでも退職を許可しないということはできないと説明しています。ただ、引き継ぎの問題は別です。日程と資料を示して、話し合います。
「辞めるなら損害賠償」と言われました。払うことになりますか?
あらかじめ金額を決めた賠償や違約金は、労働基準法16条で禁じられています。一方、実際の損害の賠償まで禁じるものではないため、個別の事情で変わります。言われた内容を記録し、総合労働相談コーナーに確かめてください。
引き止めに応じて残ったあと、条件が守られないときはどうしますか?
提案の内容を書面や日付の残る連絡で確認しておくと、話し合いの材料になります。守られないときは、まず日付つきで確認を求め、解決しなければ窓口に相談できます。
出典・参考(公的な情報)
- 民法 第627条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働基準法 第5条・第16条・第24条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 退職、解雇、雇止めなど(確かめよう労働条件)(厚生労働省)
- 辞職(裁判例)(確かめよう労働条件)(厚生労働省)
- 退職の申出があった際には(退職・解雇のQ&A)(茨城労働局(厚生労働省))
- やめたいのにダメと言われて困ってる(茨城労働局(厚生労働省))
- 不良品を出すごとに賠償金を賃金控除することは、労基法上許されますか?(Q&A)(確かめよう労働条件(厚生労働省))
- 一般労働条件確保・改善のポイント 労働条件整備ハンドブック(2026年2月)(厚生労働省 長野労働局)
- 競業避止(裁判例)(確かめよう労働条件)(厚生労働省)
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省)
- 労働条件相談「ほっとライン」(厚生労働省)
法令・制度は、上の出典を 2026年10月23日 に確認して書いています。改正されることがあるので、手続きの前に、最新の内容を各窓口で確かめてください。
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この内容は一般的な情報で、医療的な診断や個別の助言ではありません。つらさが続くときは、公的な窓口や、かかりつけ医・産業医に話してください。